集票マシーンとなれなかった市井氏
 未明の議席争いに敗れた――。21日投開票の参院選に立憲民主党から比例代表で出馬した元「モーニング娘。」の市井紗耶香氏(35)が22日、落選となった。元アイドルとして高い知名度を誇ったが個人票には結びつかず。出馬が明らかになって以降、市井氏への否定的な意見がネットを中心に多かったとはいえ、同じ元アイドルの今井絵理子参院議員は3年前に危なげなく当選していた。敗因はどこにあるのか。
 比例で改選数を上回る8議席を獲得した立民では、日付が変わっても下位当選者が確定せず、市井氏と元格闘家の須藤元気氏、石川大我氏が残り2議席を争う形に。日の出が近づくころ、市井氏の落選が決まった。
 市井氏は約5万票で8位の須藤氏に約2万3000票余り及ばず。同じアイドル出身では、「SPEED」元メンバーの今井氏(自民)が2016年に当選した時に得た約32万票の6分の1にとどまった。
「市井氏の当選は疑っていないよ」。選挙中、立民関係者は自信を持って本紙にこう答えていた。しかし、ふたを開けてみれば票は伸び悩み、「LOVEマシーン」ならぬ集票マシーンとはいかなかった。
 選挙戦で市井氏は4人の子供を持つ母親であることをアピールし、「政治の舞台に子育て当事者が少ない」と出馬の理由を話していた。「今の日本は本当に子育て世代に温かい国になっているのか疑問に思う」と子育て支援の拡充を政策に掲げていた。
 どこに誤算があったのか。永田町関係者は「知名度があれば当選するという安易な発想がいけない。こういうことをやると、このご時世は政治不信が募るだけですよ」ともはやタレント候補の時代ではないと指摘する。立民は市井氏のほかに須藤氏、アカペラグループ「RAG FAIR」の元メンバー奥村政佳氏、芸人のおしどりマコ氏など、ほかの政党に比べ突出してタレント候補を擁立していた。
「立憲民主党は焦りもあったのではないか。政党として今回の参院選で女性候補を4割にするとしていた。女性候補にこだわるあまり、市井氏に飛びついてしまった。でも“子育てをする母親”という観点なら、働くお母さんたちのネットワーク作りをしている人とか市井氏よりふさわしい人はいたはず。また経済や社会福祉の分野で活躍する女性もいたはず。人材の掘り起こしが甘かった」(前出の永田町関係者)
 元アイドルという肩書も功は奏さなかった。出馬表明以来、ネットを中心に批判の声が巻き起こった。「政治の勉強をしていないじゃないか」「子育てに集中して」「タトゥーがある人は嫌」…。さらには前出の今井氏と比較する声が多かった。
 今井氏は「障害者の子供を持つ母の意見を国政に届ける」と訴え当選した。しかし、出身地沖縄が抱える米軍基地問題について報道陣の質問にしっかり答えることができず勉強不足の烙印を押されることになった。その後も元神戸市議との不倫騒動が発覚。アイドルとしての清廉なイメージはなくなった。
 この今井氏が作り上げた“元アイドルはダメ”という印象に市井氏は足を引っ張られた可能性もある。
 もっとも、今井氏と市井氏では政治にかける意気込みが違ったとも。自民党関係者は「今井氏は手話ができるなど障害者の子供のためにという政策の柱がありました。一方、市井氏は子育てをする母親という漠然としたもの」と指摘。市井氏は国会に子育てをする当事者がいないというが、子育てしている政治家はゼロではなくインパクトは弱かった。
 また、今井氏の出馬表明は選挙の約5か月前。「選挙まで間があったので準備ができる半面、マスコミから“身体検査”を受け、スキャンダルもありました。市井氏は公示直前の表明で“身体検査”のスキを与えずひきょうな印象を受けました。出馬にあたっての覚悟が違うんです」(前出の自民党関係者)
 市井氏は選挙事務所を持たないため、当確なら立憲民主党の開票センターで取材対応をするはずだったが、午前0時までに結果が決まらなかったので中止に。本人は姿を見せなかった。