業界は騒然とした(エイズ予防を啓発するレッドリボン)
「心配で仕事どころじゃない……」。男優から、弱気な言葉が漏れた。業界を揺るがす出来事の発端は、一通の「報告書」だった。
〈AV出演者に対する性感染症検査において、AV業界プロダクション所属の女優1名がHIVに感染していることが判明しました〉
 10月22日、第三者機関「AV人権倫理機構」がHP上で公表した文書に業界は戦慄した。AV女優のHIV感染の公表は業界初のことだ。専門機関の診断の結果、〈AV撮影に関する感染ではなかったこと、当該女優と接した関係者に罹患していないこと〉が判明したという。そして、〈不慮の蔓延を防ぐことができた〉と結論づけている。
「この女優と共演した男優らには、即日検査を行なうようAVメーカーから指示があった。全ての男優からHIV陰性であるとの報告を受けたそうです。事務所、男優はもちろん、関係者にまで厳重な口止めが行なわれたようだ」(AV関係者)
 公表前には、同機構の傘下組織が各事務所宛に報告書を配布していた。そこには〈(女優が)不定期に風俗店に勤務していた〉とする一方で、〈感染後2~3か月経過していると考えられ、他人への感染リスクのある状態だった〉と、より詳細な内容が記されている。この騒動に今も狼狽しているのが男優たちだ。ベテラン男優が語る。
「報告によれば、HIV感染の発覚は9月。なぜ判明した段階ですぐ教えてくれなかったのか。正直言って、気が気じゃなかった。撮影で女優と接触した男優は10人以上いたと聞いたので、俺も含まれているんじゃないかって……。いくら大丈夫だと言われても、女優の名前も出演作も書かれていない。“狭い世界”なので、男優同士で情報を共有するしかないんですが、みんな知らないというので、不安ばかりが広がった」
 現役の“職業AV男優”はわずか80名ほどしかいないとされる。当該女優と接触した男優が10人以上いたとなると情報が出回りそうなものだが、誰に聞いても「俺もわからない」と繰り返すのだという。別の男優もこう語る。
「伏せられていた1か月余りの間、全く噂にならなかった。僕が知ったのは22日の公表後、しばらく経ってからです。撮影に入る前にプロデューサーから『こういうことがありました』って言われたんです。
 いまのAV撮影は避妊具を着けないことも珍しくない。男優は毎月必ず自費で性病検査をして、“異常なし”という検査結果を提出しなきゃ仕事をさせてもらえない。梅毒に1度でも罹患すれば、根治しても仕事は激減します。僕らは個人事業主ですから、性病感染の疑いがある、というだけで廃業のリスクがあるんです。だから今回の件で女優と接触した男優も、表向きは『何も知らない』と言うしかないでしょう」
 メーカーや監督に直接電話で問い合わせる者もいた。
「だって感染発覚以降も撮影は普通に行なわれていましたから。接触した男優が別の女優と接触し、その女優と俺が接触しているかもしれない。自分の身は自分で守るしかないんでね。けど女優の名を尋ねても誰も答えてくれない」(中堅男優)
 今回のHIV感染問題の真相を知るAV関係者が匿名を条件に語る。
「感染したのは風俗店勤務を経て、最近デビューした女優で、所属する事務所の社長から『うちから感染者が出てしまった』と直接報告を受けました。女優は約10本の作品に出演しており、全て避妊具を着けた作品だったので、報告書に記載されているように感染は撮影以外の経由だろう。
 詳細が明かせなかったのは、万が一にも女優が特定されれば、出演作が全て世に晒され、そこに出ていた全員に迷惑がかかりかねないから。だから私もこれ以上詳しい話はできない」
※週刊ポスト2018年11月16日号