イチロー
 3月21日、大リーグ・マリナーズのイチロー選手がプロ野球現役引退を表明。その夜、都内ホテルで引退会見が開かれた。会見では、献身的に支えてくれた弓子夫人へ感謝を口にする場面があったが、この発言が、一部ネット上で物議を醸している。

 イチロー選手は献身的に支えてくれた弓子夫人のエピソードとして、試合前におにぎりを常に用意してくれたことを紹介。次のように述べた。

「ゲーム前、ホームの時はおにぎりを食べるんですね、妻が握ってくれたおにぎりを。その数が2800(個)くらいなんですよ。(弓子夫人は)3000(個)行きたかったみたいですね。そこは3000個握らせたかったなと思います。妻も頑張ってくれました。妻にはゆっくりしてほしいですね」と、イチローは弓子夫人をねぎらった。

このイチローの発言が、モラハラにあたるとネット上で批判する声が挙がった。また、“プロ野球選手として数々の賞を受賞したイチロー選手と反対に、弓子夫人は夫を支えるために時間を消費したのだから「感謝」ではなく「謝罪」すべき”という投稿は、ツイッターで3月26日17時現在、3000件近く「いいね」を集めている。さらに、精神科医でタレントの香山リカもこの意見に「いいね」で共感を示したことで、ネット上では大きな注目が集まっているようだ。

 一方で、イチロー選手の発言はモラハラではないとする意見も続出。「これって(主婦という)裏方を馬鹿にしているよね。スポットあたらない人は可哀そうってこと?」「家事はやらされる仕事って感覚なのか」「家事は下等な仕事だとでも思っているのだろうか」「一部分を切り取ってモラハラとは…悪意を感じる」など、イチロー選手を批判している人の考えが偏っているのではないかという意見が多く見られた。また、定年を迎えた夫を持つ女性だという投稿者からは「家事って嫌な仕事なのでしょうか?それに謝罪より感謝の方が嬉しいです」と自身の経験を踏まえた意見もあった。

 実際に、夫を支えている妻たちはどのように考えているのだろうか。

 2014年3月にアメリカンフットボール選手の栗原嵩さんと結婚した栗原ジャスティーンさんは、公式ブログでアスリート妻の過酷さと充実さを語っている。仕事と家事を両立しているというジャスティーンさんは、早朝から働き通した後に買い物を済ませて、夫のために料理しているという。休日に友達と遊んでいる時も、夫が帰る前には帰宅して料理にとりかからなければいけない生活の繰り返し。それでも、サポートが良い方向に向かっているのを感じた時は嬉しいと述べていた。

 また、2018年3月9日、朝日新聞の投稿欄に、末期がんで入院していた70代の女性が遺した詩が掲載された。国語の教師として働いていた女性は、結婚を機に退職。出産と同時に夫の転勤があり、環境が変わった中で育児をすることになったという。詩のタイトルは「妻が願った最期の『七日間』」。もし元気に7日間過ごせるのであればという内容なのだが、1日目にやりたいことは夫の好物を作る事だった。

 女性の社会進出が当たり前の現代において、妻だけに家事を押し付けるのは問題であるとの認識が高まってきている。しかし、上記の2例のように、パートナーを支えることに幸せを感じている人も少なからずいる。夫を支える妻たちを周囲が「モラハラ」被害者と決めつける前に、彼女たち当事者の考えに耳を傾ける必要があるのではないだろうか。