他人の相談に乗るのは胆力がいる。
例えば、社内の嫌われ者に「俺って嫌われてるんですかね?」と聞かれたとき、どうするか。よかれと思った忠告が原因で恨まれることもある。仕事相手からのリアクションしづらい相談にどう答えるべきなのか。今回は、江戸時代の職業あっせん屋である“口入れ屋”が舞台の時代小説『口入れ屋おふく 昨日みた夢』(宇佐江真理著・角川書店)からヒントを探りたい。
本書の主人公・おふくは夫の失踪をきっかけに、実家の家業を手伝う。父親と伯父が営む口入れ屋「きまり屋」は今でいう、就職あっせん業。次々と持ち込まれるトラブルを、おふくが機転で乗り切っていくという物語だ。
「希望を持たせなくてどうします。病人は医者が頼りです」
おふくが淡い恋心を抱く町医者の玄桂(げんけい)は患者に死期を伝えない。いぶかしがるおふくに、「医者の立場として、もう命がないとは言えない」と説明する。曰く「希望を持たせなくてどうします」というのだ。
伝えるべき真実は自分の役割や相手との関係性によって変わる。気力を奪う真実より、希望に満ちたウソが求められる場面は確実にある。相談を持ちかけられたのが、仕事相手なら、なおさらだ。
「贅沢はほんのちょっぴり味わうだけでいいな。毎度だとありがたみが薄れちまう」
これは主人公の伯父で、「きまり屋」の店主でもある芳蔵のセリフ。番頭時代には謙虚だった商売仲間が店をついだ途端、贅沢志向になったことをチクリと皮肉る。
芳蔵の「贅沢はほんのちょっぴり味わうだけでいい」論は汎用性が高い。例えば、好かれる努力を説く代わりに、「たまに好かれるからこそ感動する」と励ます。心にもないお世辞を言わなくていい分、心理的負担も減るわけだ。
「めそめそしないで働くことだ。なあに、お天道様はちゃんと見ているって」
夫の失踪に傷つきながらも、気丈に振舞うおふく。居酒屋の女主人はそんな彼女を褒め、「めそめそしないで働くことだ。なあに、お天道様はちゃんと見ているって」と励ます。
しっかり仕事をしていれば、必ず誰かが見ている。そう考えることは働く励みになる。同時に、生産性の乏しい悩み相談の抑止力としても役に立つ。仕事から生まれた関係は“いい仕事”通じて深めようというメッセージにもなりうるのだ。
ハーバービジネス参照
世の中大変です
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