若者と女性、そして子供に貧困が集中している日本。特に深刻なシングルマザーの貧困事情や、「子供の6人に1人が貧困状態」という驚くべき数字も、ようやく現実感を伴って受け入れられるようになってきた。
では当事者のシングルマザーはどのように日々の食卓を維持しているのか。月収13万円未満で、賃貸暮らしのシングルマザーに絞ってその実態を聞いた。
「田舎なんで、団地の1区画ごとに少しだけ庭のスペースがあります。夏場はここで菜園ですね」
そう語るMさん(静岡県・33歳)は、離婚から4年。菜園を始めた最初の年は「スーパーで野菜を買ったほうが安かった」と言う。
「素人でも、ほぼ放任してても育って、保存が利くものがいい。冬の野菜は素人には難しいので、夏に作って大量保存してます。例えばニラなんか一度根付いたら雑草と同じ。シソも毎年放っておいても生えてくる。あとオクラ、トマト、ジャガイモ、カボチャ。この辺を所狭しと作って、業務スーパーで売ってる海外産の激安ひき肉と合わせて、自作の皮で餃子や春巻き、ハンバーグにします。他はミートソースやポタージュにして、秋までに冷凍庫一杯に作っておくんです」
この“菜園作戦”で、M家の食材のレシートは「ほとんど卵とひき肉ともやしとお米」だという。
ドンキやアマゾンで激安食材を大量に買っておく 一方で「子供が食べたいものを安く作る」というコンセプトに特化しているのは、Tさん(東京都・37歳)。
「仕事がとても忙しいので、ドン・キホーテのおまとめレトルトが重宝してます。5食300円のカレーとかパスタソースとか。これをベースに肉とか野菜を増量。ゼロから作るよりは随分安いんです。結局、調味料とか香辛料って高いんですよね」
そんなTさんの最大の工夫は「子供と一緒に作る」だ。
「お米がない時用に常に小麦粉だけは常備しておいて、子供と一緒に手打ちうどんとかパスタも作ります。あと娘が気に入ってるのがホットケーキの粉を使ったケーキとか、クレープもどき。これはアマゾンで1キロ1000円ぐらいの安い粉があるんで。貧乏だなとは思うけど、大事なのはふれ合いだって思ってますから」(Tさん)
こう並べると、あまり「貧困」を感じさせる悲壮感はない。だが以下のケースはどうか。
2013年に離婚し、小学3年生の息子と暮らすHさん(埼玉県・29歳)は「息子には食べさせるけど、私は食べないことが多い」と言う。
「空腹に慣れてしまい、食べると吐くようになったんです。整腸剤の『エビオス錠』とスポーツドリンクをたくさん飲むと、健康でおなかが減らなていいですよ。あとはお酢を飲んでいる」
ペットショップで108円のパンの耳を買う 家計を聞けば、食費を圧迫しているのは賃貸の家賃と、Hさん自身が通っている精神科とカウンセラーの医療費だ。
「解離性パーソナリティ障害とパニックと鬱です。薬を飲まないと仕事(ホームヘルパー)ができないけど、薬を飲むと朝が地獄なんで……。家にいるときは寝ていることが多いから、自然と子供の食事は仕事帰りに買うマクドナルドとかが多くなりますね。朝ご飯はシリアルと牛乳です。それでも給料日前は厳しいから、ペットショップで108円で売られているパンの耳を買ってます。パン屋さんだと50円でもっと大量にくれるけど、恥ずかしくてあまり行けないんです。パンの耳は100円ローソンで買ったスープの素に浸して食べさせます。これだけだと切ないんで、やっぱり100円の冷凍食品を砕いて入れたりするのが息子のお気に入りです。3年生にもなれば、自分でいろいろと食材の組み合わせを工夫してくれるんで、助かってますけどね」(Hさん)
取材を通じて痛感したのは、実は貧困シングルマザーの食卓は、本人のメンタルの状況によって大きく左右されるということだ。同様にメンタルを失調しているシングルマザーからは「食事は作れない。子供が勝手に買い置きのレトルトで済ませてくれている」「子供の食事は毎日近くに住んでる実家に食べに行かせている(でも本人と親は関係が悪く実家出入り禁止)」「朝は食べさせず、夕食は毎日300円渡して自分で買いに行かせている」と言った声がゴロゴロ出てくるのだ。
「食事作る時間があったら寝るか仕事しないと」(Hさん)という声が、何よりも追いつめられたシングルマザーの本音を感じさせたのだった。
鈴木大介「犯罪をする側の論理」をテーマに、裏社会・触法少年少女らの生きる現場を中心に取材活動をつづけるルポライター。著作に、福祉の届かない現代日 本の最底辺の少年少女や家庭像を描いた『家のない少女たち』(宝島社)『出会い系のシングルマザーたち』(朝日新聞出版)、『家のない少年たち』(大田出版)『最貧困女子』(幻冬舎)など。近著『老人喰い』(ちくま新書)が絶賛発売中参照
日本経済の真の姿??
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