日韓請求権協定資金については、2005年の時点で韓国の盧武鉉政権が、「強制動員の被害者補償問題の解決金などが含まれている」として「解決済み」との判断を示していた 写真/時事通信社
 日本による朝鮮半島統治時代に強制労働に従事させられたと主張する「元徴用工」4人が、新日鉄住金を相手取り損害賠償を求めていた裁判で、韓国の大法院(最高裁)は、個人の請求権を認めた控訴審判決を支持。1人当たり1億ウォン(約1000万円)の支払いを命じる判決が確定した。

 そもそも徴用工問題は、1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決された問題だ。協定の交渉過程で、日本側は個別賠償を申し出たが、韓国側が個別賠償には政府が対応するとして一括賠償を要求したので、現在のかたちに落ち着いた経緯がある。

 だが、韓国政府はかねてから日本企業273社を「戦犯企業」として実名で“告発”しており、行政安全部の把握している強制徴用被害者が21万6992人に上ることから、今後、日本企業が2兆円を超える賠償を求められる可能性も出てきた。

「うちの祖父も被害者だが、今、訴訟を起こせば勝てるのか?」

 最高裁の決定を受け、強制徴用被害者を支援する行政安全部の過去史関連業務支援団には、そんな問い合わせの電話が殺到しているという。慰安婦問題に続き、今度は徴用工問題……。なぜ、韓国は「ゴールポスト」を動かしてまで、日本に歴史戦を挑んでくるのか? 元駐韓大使で外交経済評論家の武藤正敏氏が話す。

「韓国では、竹島・慰安婦・靖国神社・教科書問題が“反日4点セット”などと言われてきたが、今回出された判決のインパクトはこれらの問題とは比べ物にならないほど大きい。日韓請求権協定は国家間で交わされた条約であり、突如として一方的にそれを引っ繰り返すということは、国際法的にも慣例上も決して許されないことなのです。

 そもそも、判決を主導した金命洙院長(最高裁長官)は長年、左翼系の勉強会を主催してきたことで知られ、最高裁判事の経験もなく、文在寅氏の大統領就任を機に抜擢人事で司法のトップに上り詰めた人物。つまり、文大統領は『司法の判断に任せる』と言っているものの、今回の最高裁の判断は大統領の息のかかった人物が“結論ありき”で出したもので、司法権の独立とはかけ離れた判決なのです」

 新日鉄住金の裁判以外にも、現在、三菱重工、不二越、横浜ゴムなど5つの日本企業に対して13件の損害賠償を求める裁判が提起されている。今回の判決を受け、新日鉄住金の宮本勝弘副社長は「極めて遺憾だ」との見解を発表しているが、今後、日本企業を標的にした訴訟が次々と起こされるのは間違いないだろう。作家で経済評論家の渡邉哲也氏が話す。

「新日鉄住金は韓国国内に資産がなく、資本提携している韓国鉄鋼大手・ポスコの資産が差し押さえられる可能性もあるが、新日鉄住金は提携を解消すればいいだけの話。加えて、ポスコは新日鉄の特殊鋼技術を盗んだ咎で訴訟となり、新日鉄がポスコの生産の枠組みを決定する和解案で合意している。極論すれば、新日鉄住金がポスコの生産量をゼロにすることも可能だし、そうなればポスコは倒産を免れない。

 ただ、今後は賠償請求を求める裁判が立て続けに起こされ、日本企業が韓国に所有する資産が差し押さえられることも十分にあり得る。賠償請求がすべて認められれば2兆円以上かかるとされているが、日韓請求権協定の締結時まで遡って換算すべきとの主張もあり、そうなれば遅延損害金を含めて6兆円まで膨れ上がる。韓国では、日本国内にある資産を差し押さえろ!といった意見もあるくらいです」

 しかも、今回勝訴した4人の原告は「元徴用工」と一括りに報じられているが、4人は「徴用」ではなく「募集」や「官斡旋」で日本に来ており、このうち2人は募集広告を見て自ら応募。正規の面接試験を受けて採用されているのだ。