『月刊 松本まりか・汀 写真 ND CHOW』 (C)ND CHOW/小学館
圧倒的な演技力で話題のドラマに次々と出演中の女優・松本まりか。今クールでも月9ドラマ『シャーロック』(フジテレビ)や『死役所』(テレビ東京)での演技が話題を呼んでいる。そんな松本が8日(金)に実に15年ぶりとなる写真集『月刊松本まりか・汀 写真 ND CHOW』(小学館)を発売した。「本当の自分と向かい合って挑めた自信作」と語る写真集について松本自身に聞いた。

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──『月刊松本まりか・汀 写真 ND CHOW』は、松本さんにとって15年ぶりの写真集ということですが、どうしてオファーを受けようと思ったんですか?



松本 最初はお断りしたんです。私の写真集なんて滅相もないというか、自分に写真で見せるものなんてあるのだろうか、需要があるのだろうかという気持ちもありましたし、いい写真が撮れる想像もつかなかったんです。

──かなりネガティブに捉えていたんですね。



松本 自分の見た目にコンプレックスもありましたし、今まで写真に撮られる機会も少なかったので何が写るのか、何も写らないのかが怖かったんです。自分が被写体として写真に残ることの恥ずかしさ、抵抗感がものすごくありました。

──映像に撮られる感覚とは違うんですか?



松本 そもそもずっと映像も抵抗があったんです。頻繁にドラマや映画に出始めたのも最近のことですし、舞台だと伸び伸びとできるんですけど、映像には向かないんじゃないかって思っていました。私は2000年に『六番目の小夜子』でデビューして、このドラマはやり切れた、という数少ない達成感があったんです。ところが徐々に自分の容姿や能力に自信がなくなっていって、あまり映像の仕事がない時代が十数年続いて。映像をやりたいって憧れもあったんですけど、そういう気持ちを持っていたからこそ、邦画や日本のドラマは観られなかった時期が長く続いて……。ちゃんと観るようになったのは最近です。

──同世代で活躍する役者さんを観るのが辛かったということですか?



松本 そうですね。映像は自分の主戦場じゃないって逃げていた部分もあったし、同世代の子たちが活躍しているのを知らないほうが幸せなのかなと。映像に対する憧れ半分、自分なんて……って気持ちが半分。写真集は「自分なんて……」の最たるもので、いわば映画やドラマは自分じゃない何かを演じているからまだいいんですけど、写真集のように素の自分で勝負することが想像できなかったんです。自分が一番見たくないパンドラの匣というか。

──一度は断った写真集を、どうしてやろうと思ったんですか?



松本 プロデューサーの方が、「君は写真の世界が合うと思う」って熱心に言ってくださって。そこまで言ってくださるなら、私の知らない世界がそこにあるのかもしれないと。彼はプロだから、プロの声に耳を傾けるべきだと思ったんです。

──ロケ地はベトナムですが、松本さんは撮影前から一人旅をしていたとか。



松本 写真集が決まってから、前から行きたっかったインドのガンジス川に特に予定も決めずに旅に出たんです。ただゴールデンウィークで飛行機のチケットが取れなくて、韓国経由だったら行けると。それでトランジットで韓国に10日ぐらいいて、それからデリーに行って、ホテルも予約せずに、その場その場で目的地を決めて。その旅の途中に、ベトナムで写真集を撮ったんです。

──ものすごく自由な撮影ですね。



松本 すべてがタイミングなんですよ。写真集が決まって、旅に行きたい気分になって、その流れで写真集を撮ろうと。カメラマンのアンディ・チャオとの出会いもタイミングでした。ずっとアンディは「もう写真集は撮らない」って言ってたらしく、キャリアも実力もあるのに留学して勉強をしている最中だったんです。ところが今回、出版社の方がダメ元でオファーしたら、私の出演したドラマなどを観ていたらしく、「興味がある」と受けてくれたんです。

──そうした自然の流れがあったからこそ、プライベートさながらの生々しい表情も捉えられていたんですね。



松本 日本の社会や芸能界で生きてきて、知らず知らずのうちに付いてしまった殻みたいなものや、生き辛くしていた何かを取っ払いたかった気持ちもあったんです。誰かのための写真集ではなくて、自分の醜い姿を見せてもいいと言える強さが欲しかったんでしょうね。

──ドラマ「ホリデイラブ」で演じた里奈は「あざとかわいい」と話題を集めました。そのイメージにプレッシャーを感じたりは?



松本 「あざとかわいい」って思ってもらえるのはもちろん嬉しいんですが、多分私が「あざとかわいい」の本質を理解していないし、それほど知ろうとしていないのかもしれないです。いろんなキャッチコピーを付けられるんですよ。それこそ「あざとかわいい」もそうですし、「絶叫女優」とか「令和の怪物」とか(笑)。いろいろ作品をやるたびにキャッチコピーをつけていただくのは嬉しいし、そういう記事は楽しく読んでますよ。

──撮影はどんな雰囲気で進んでいったんですか?



松本 アンディとの撮影自体が旅みたいなもので、二人で好きな場所に行って撮影をしていたので、スタッフさんは大変だったと思います。本人たちもどこに行くのか分からない(笑)。私の感じるままに、自然と動いている姿を、何も言わずに撮影してくれた。飾らない私を肯定してくれたんです。それは初めての感覚で、すごく楽しかったんですよね。ゼロから表現が生まれる感覚を得られたことも大きいし、「写真とはこうだ!」って掴めた訳じゃないですけど、自分の中で何かが動いたのは確かで、それが気持ち良かったんです。その感覚を全編で味わえた写真集ですね。

──今回の写真集を通して、自分の中で変化はありましたか?



松本 たまに素の自分が怖くなる時があるんです。自分で自分が分からない。知っているつもりではあるんですけど、分からない自分がふと出てきちゃう。信頼している方には自分を出すことができるけど、そうじゃないと自分を出すのが怖くて身構えて固まってしまう。でも今回の写真集で、素の自分を肯定できるようになったのかもしれません。

──写真集を通しての気持ちの変化は演技にも影響を及ぼしたのでしょうか?



松本 お芝居をしている時は、ある意味、偽りの自分、作られた自分ですよね。特に最近は綺麗な役柄が多いので、そのイメージを壊しちゃいけないと思ってしまうんです。でも私自身は性格的にも色気のあるいい女じゃないですし。演技のことを褒めていただいても、もちろん嬉しいんですが、過大評価というかそこまでじゃないと思ってしまう。そういういろんなイメージを持っていただくことは女優としてはいいことだと思うんですが、そこにあまりにもギャップを感じると、自分が怖くなってしまうんです。でも今回は飾ってはいけない、カッコつけてもいけない撮影で、いわば自分を克服するための写真集でした。何が演技に影響を与えたかとがはっきり言えないんですけど、こういう経験って確実に血肉になっていると思います。

▽『月刊 松本まりか・汀 写真 ND CHOW』


発売日:2019年11月8日
撮影:ND CHOW
価格:2,250円+税
発売元:小学館刊
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