AV人権倫理機構が発表した文書
 あるアダルト女優がHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した――。業界の健全化を図る第三者機関「AV人権倫理機構」が22日に発表した内容に衝撃が走っている。同機構によると、この女優が性感染症の検査を受けたところ、HIV感染が発覚。「感染経路は撮影によるものではない」「関係者への罹患はない」と断言しているものの、男優たちは不安を隠せない。ある男優は「自分が感染したかもしれないと思うと怖い」と本紙に吐露。何らかのルール作りが急務だが、どこまで実効性があるのか問題は山積している。
「AV人権倫理機構」は出演強要問題をきっかけに、2017年10月に発足したばかり。大学教授や弁護士らで構成する有識者団体だ。同機構によると、当該女優は業界プロダクションにも所属し、今年9月に行った性感染症検査で発覚した。
 リリースでは「撮影に関する感染ではなかった」「当該女優と接した関係者に罹患していないことを確認」と断言。すでに専門機関での治療を始めており、プロダクションも支えていく意向を示しているという。「今回の報告を受け、加盟各団体に再度安全配慮をお願いし、徹底防止に努めるよう伝えた」としている。
 だが、感染発覚が9月で発表が10月22日。このタイムラグに、関係者からは「いくらなんでも発表が遅過ぎる」と怒りの声が噴出しているのだ。「すぐに周知させないと第2、第3の感染者が出てもおかしくない。自分が当事者だったらと思うと怖いですよ」とある男優。
 現在、アダルトメーカーは撮影に臨む際、出演者たちに性感染症の検査結果の提出を義務付けている。だが、これには限界があるという。
「以前はまったく検査なんてやってませんでしたが、最近は出演者は月に1回、自主的に検査をするようになっています。HIV、クラミジア、淋病、梅毒、C型肝炎など7項目ぐらいでしょうか。現場で男優と女優が見せ合いっこして、お互いが安心感を共有しているんです。おそらく、今回の女性はその検査でわかったんだと思います。あくまで月イチなので、感染の時期によっては危険でしょうね」(プロダクション関係者)
 業界内には「月イチではなく、2週間に1回に徹底すべき」という声もあるものの、なかなか難しい実情もある。
「1回の検査で約1万8000円かかるんですよ。これは自費。一部、メーカーが負担しても5000円ほどです。私なんて年間20万円は検査代に消えていきますからね。ギャラが1回5000円しかもらえない男優なんて、とてもじゃないけどやってられない」と前出の男優は嘆く。
 実は、今回の発表自体、疑問視する声も…。ある有名男優は匿名を条件にこう指摘する。
「感染女優さんのプライバシーに配慮しているのはわかるが、いったいどういう感染経路だったのか、ふさわしい期間にどれだけの撮影を行ったなど詳しいことが書かれていない。これでは不安をあおるだけではないか。なぜ感染経路が撮影ではなかったのか根拠が知りたいですよ」
 実際、ネット上では女優を特定しようという動きや、すでに17人の男優と絡んだとする真偽不明の噂が独り歩き。同機構の狙いとは逆に女優の人権侵害が広がっている。これでは本末転倒だろう。では、対策はあるのだろうか。
「正しい知識の周知と検査の徹底しかないでしょう。たとえばHIVに感染しても普通に生活はできるし、セックスすることも可能です。そのような知識こそ差別をなくしていく。また、インフルエンザワクチンのように、検査代に国が補助金を出すなどの対策をしたらいいのではないか。最近は一般人の梅毒患者が増加傾向にあり、アダルト関係者に限らず、広く性感染症の検査が当たり前のようになるしかない」(性感染症に詳しい関係者)
 今回の騒動は、業界の新たな問題を浮き彫りにしたといえそうだ。