鳥貴族 三軒茶屋店(東京都世田谷区/編集部撮影)
焼き鳥チェーン「鳥貴族」の客離れが止まらない。一時は「単一業態の居酒屋の星」といわれたチェーンに、何があったのか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は、「鳥貴族を模倣した店が増えているうえに、一律280円から298円に値上げしたことで客離れが進んだ。回復のためには値段をもとに戻すしかない」と分析する――。

■10カ月連続で既存店客数が前年同月比マイナス

鳥貴族の客離れが続いている。既存店客数は直近の9月まで10カ月連続で前年同月を下回った。総合居酒屋が苦戦する中で、単一業態の居酒屋の星として業績を伸ばしていた鳥貴族に、いったい何が起きたのか。
鳥貴族は昨年10月、原材料費や人件費の高騰などを理由に商品の価格を一律280円から298円に値上げした。当時は値上げに踏み切る競合もいくつかあり、「ある程度の値上げはやむを得ない」という雰囲気もあったように思う。だが、値上げ率が6%超と高かった一方で、しっかりと商品の価値を訴求することができず、結果として消費者には受け入れられなかったようだ。
鳥貴族の客数減少は深刻なペースだ。直近5カ月では、9月が15.3%減、8月が9.2%減、7月が14.2%減、6月が11.4%減、5月も11.4%減と、大幅な減少が続いている。当然、既存店売上高も減少が続き、9月まで10カ月連続で前年同月を下回っている。かなり深刻な状況といえよう。

■年間100店以上の出店攻勢をかけ665店に

幅広いメニューを提供する総合居酒屋の退潮が叫ばれるなか、鳥貴族は焼き鳥に特化した居酒屋を展開することで成長してきた。鶏肉に特化した大量仕入れでコストを抑え、一律280円という低価格を実現してきた。出店攻勢をかけ、店舗数は一気に拡大。多い時で年間100店以上も出店し、18年7月末時点で665店を展開するまでになっている。
店舗数の拡大により、鳥貴族の売上高は大きく伸びている。直近の18年7月期の売上高は339億円で、前年比15.8%増だった。しかし、客離れの影響で増収率は低下している。また、収益性の下がった店舗の閉鎖により、5億円の減損損失も計上した。これが影響し純利益は前年比31.6%減の6億円と大幅な減益となった。
鳥貴族は焼き鳥に特化することで成長してきた。しかし一方で、焼き鳥という一つの商材に特化したことにはリスクが伴う。それは「模倣されるリスク」だ。総合居酒屋であればメニューのすべてを模倣することは困難だが、一つの商材をメインに扱う専門居酒屋のメニューを模倣することはより容易といえる。
実際、鳥貴族を模倣したと思われる鶏居酒屋は次々と現れた。鳥貴族の快進撃を見てのことだろう。代表例はワタミの「三代目鳥メロ」、コロワイドの「やきとりセンター」、DINAMIXの「鳥二郎」、エー・ピーカンパニーの「やきとりスタンダード」だ。ワタミは不振が続く総合居酒屋「和民」を転換する形で、三代目鳥メロを急速に増やしている。こうした鶏居酒屋との競争が激化し、鳥貴族が客を奪われたと考えられる。
飲食業界ではこうした「模倣」がたびたび起きている。例えば、エー・ピーカンパニーの「塚田農場」だ。本格的な地鶏料理を提供する居酒屋として07年より出店を開始し、全国に地鶏ブームを巻き起こして人気チェーンに成長した。しかし、12年から居酒屋大手のモンテローザが地鶏料理を提供する居酒屋「山内農場」を始めるなど、同様の地鶏居酒屋が増えて競争が激化し、塚田農場で客離れが起きるようになった。

■専門外のメニューを充実させる飲食店が増加

塚田農場は、エー・ピーカンパニーの外食事業の店舗数のうち7割を占める。同事業の既存店売上高と客数は14年5月から18年9月まで53カ月連続で前年同月を下回っている。直近の18年9月の既存店売上高は前年同月比11.3%減、客数は同11.1%減という大幅な減少になっており、回復の兆しが見えてこない。同社の業績も不振に陥り、直近の18年3月期連結決算は、売上高が前年比0.9%減の約257億円、純損益が約2億円の赤字(前期は1億円の黒字)と厳しい状況だ。鳥貴族も似たような状況に陥りつつある。両社とも専門居酒屋特有の弱さが露呈しているように思える。
一方で、専門ではない分野のメニューを強化することで競争力を高めている飲食店が増えている。典型例は「回転ずし」だ。大手回転ずしチェーンのスシローは、ラーメンや牛丼、デザートといったサイドメニューを強化することで集客を図っている。また牛丼チェーンでは、「牛丼一筋」をうたってきた吉野家も、豚丼や鶏丼、カレーといった非牛丼メニューを強化している。苦戦が続いているドーナツチェーンのミスタードーナツは集客を図るため、17年11月に「ミスドゴハン」と名付けてパスタやホットドッグなどの食事メニューの販売を始めた。非専門分野のメニューを強化し、各社ともそれなりに成功しているようだ。
しかし鳥貴族がこうした戦略を採用するとは考えづらい。スシローや吉野家、ミスドなどが非専門分野でそれなりに成功しているのは、それぞれの専門分野で確固たる地位を築けているためだ。そうでなければ、非専門分野の品質を保証することはできない。
鳥貴族には勢いはあるが、鶏居酒屋として確固たる地位を築いているとまではまだいえず、そうした中で非専門分野を強化するのは危険だろう。ブランドイメージをブレさせるだけで終わる可能性が高い。
また、非焼き鳥メニューを極端に強化してしまうと鳥貴族が総合居酒屋化してしまい、業界のトレンドを逆行することになりかねない。将来的には総合居酒屋が息を吹き返す可能性があるとしても、現時点ではその兆しは見えていない。現状の居酒屋業界では取りづらい戦略といえよう。

■別業態を確立してリスク分散を図るべき

鳥貴族は専門居酒屋としての弱さを補うために、鳥貴族以外の業態店を確立する必要があるのではないか。同社は鳥貴族の単業態での展開を進めているが、そこで変調をきたし、逆に非焼き鳥メニューを強化することもベストではない以上、業態ごと別に確立してリスクの分散を図る段階にきていると筆者は考える。
エー・ピーカンパニーは塚田農場などの地鶏業態への過度な依存を避けるため、海鮮居酒屋「四十八漁業」や「やきとりスタンダード」などの非地鶏業態を増やしてきている。鳥貴族も同様に、非焼き鳥業態を確立する必要があるのではないか。
もっとも、鳥貴族が非焼き鳥業態を確立するという戦略は中長期的な収益を安定・改善させるためのものであって、短期的な視点のものではない。新たに業態を確立するには時間がかかる。短期的な視点の施策も別に必要だろう。
それにはやはり、鳥貴族の大胆な改革が欠かせない。鳥貴族は今期(19年7月期)の方針として、新規出店を抑え、既存店のてこ入れに注力することを掲げている。付加価値の高い新メニューを開発するほか、調理技術や接客力を高めて既存店の収益を改善させる考えだ。
ただ、これだけでは、抜本的な改善には至らないだろう。調理技術と接客力を高めることは必要なことだが、それだけで大きな改善が達成できるとは考えにくい。付加価値の高い新メニューの開発ももちろん必要だが、焼き鳥はハンバーガーやラーメンなどと違ってアレンジがしづらい商材のため、これによる改善も限定的だろう。結局のところ、どうしても価格が重要な意味を持たざるを得ない。
そこで、思いきって価格を280円に戻してはどうだろうか。値上げが間違っていたことを認めるのだ。そうでもしないと、客離れを止めることはできないのではないか。

■多少のコスト増は吸収できる体力を持っている

値上げでコスト増をカバーし利益率を改善することができたとしても、客数が減って売上高が減ってしまえば、利益の“額”がかえって減ってしまうこともある。それでは値上げした意味がなくなってしまう。同社はもともと高い利益率をたたき出しており、多少のコスト増であれば十分吸収できる体力を本来はもっている。それゆえ、客数が回復すれば280円でも十分やっていけるだろう。
いずれにしても、大幅に客数が減っている現状を鑑みると、抜本的な対策を喫緊に講じることが必要不可欠だ。大胆な決断と迅速な対策の実行が求められる。
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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)