ゴーン被告の逃亡劇:保釈など日本の司法制度の問題点
舛添要一
12月31日、日産のカルロス・ゴーン元会長がレバノンに到着したことが明らかになった。海外渡航禁止という保釈条件違反である。ゴーンは、「私は司法から逃げたわけではない、日本の政治的迫害から逃れたまでだ」と声明で述べ、日本の裁判では、自己弁護すら不可能だと厳しく指摘した。
3月5日、東京地裁はカルロス・ゴーン被告の保釈を決めた。弘中弁護士の戦略は、日本国内に住み、住居の出入り口に監視カメラを設置する、海外渡航を禁止する、日産幹部など事件関係者との接触を禁止する、日産取締役会への出席には裁判所の許可を必要とする、パソコン・携帯電話の使用を制限するなどの保釈条件を提示したことである。
これを裁判所は評価したものと考えられるが、公判前整理手続きが始まる前の保釈決定は異例であり、東京地検は決定を不服として準抗告したが棄却された。検察側は、このような保釈条件について、工夫をすれば証拠隠滅が可能となるのではないかと、その実効性を疑っていた。その検察の懸念が現実のものとなってしまった。
刑事訴訟法上は、証拠隠滅や逃亡の恐れとともに被告の人権保護を考慮することになっている。「異例」の保釈決定には、長期勾留に対して海外から厳しい声が寄せられていたことがある。
たとえば、家族が面会できる可能性が少ない、取り調べに弁護士が同席できないことなどが問題視された。とくに、検察の主張を否認し続ければ保釈されないというのが通常であり、これが、「人質司法(hostage justice)」制度として厳しい批判に晒された。
日本では、司法は聖域となっており、一切の批判から免れてきた。冤罪判決であることが後で判明しても、権威が失われるということはない。司法のような聖域は、今回のゴーン逮捕劇のような「外圧」がなければ揺るがない。幕末に到来した黒船と同じである。各国はそれぞれ独自の司法制度を持っており、一長一短があるので、日本の制度が遅れているわけではないが、他の先進民主主義国では当然となっている仕組みくらいは取り入れる努力が必要であろう。
具体的には、家族との接見を容易にする、取り調べに弁護士の立ち会いを許可することくらいは実現させたらどうか。また、最近は随分改善してきたが、裁判所が検察の主張を鵜呑みにして、安易に勾留を長期化させることも問題である。日本人は、検察に対して絶大な信頼を持っており、検察も逮捕し、勾留した以上は必ず有罪にするという信念を持っている。この「無謬性の神話」が問題である。
永田町も霞ヶ関も司法改革には及び腰である。基本的人権の擁護という点で、せめて先進国の水準にまで改革することが不可欠だと思う。そうでなければ、経済事件ですら長期勾留される国だというイメージが世界に拡散され、ビジネスを展開するために来日しようという優秀な外国人は減ってしまう。
ゴーンの逃亡を日本の聖域、司法にメスを入れる機会としたい。
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