7年目のM-1 オール巨人が明かす“審査員の苦悩”「来年はM-1を休むつもりです」
12月22日に決勝が行なわれる「M-1グランプリ」。
オール巨人さんは今年も審査員に名を連ね、自身7度目のM-1となります。昨年は同じく審査員を務める上沼恵美子さんをめぐっての暴言騒動もありました。M-1は出場コンビはもちろん、彼らの命運を握る審査員にとってもプレッシャーの大きい舞台ではないでしょうか。
そんな審査員を「来年は休もうかな」と明かした巨人さん。その理由とは? (全3回の2回目/#1、#3へ)
M-1審査員は今年で7度目になるオール巨人さん
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ミルクボーイはだいぶ前から知ってますよ
――今年のM-1決勝は史上最多、7組が初出場ですが、どれくらいご存知なのですか? 9組中8組は、いちおう吉本ですが。
巨人 半分くらいわかりませんでしたね。ミルクボーイとかは、だいぶ前から知ってますよ。
――ミルクボーイは予選でも、ことごとく大爆笑させていました。
巨人 最初、ぜんぜんおもろなかった。ちゃんとしゃべってくれよ!いうレベル。でも、ここ2、3年、うまなったな。ツッコミの内海(崇)君は、ちょっと昭和の芸人の匂いがあって好きやね。
――無名コンビが多数選出された反面、和牛、ミキといった本命視されていたコンビが落選しました。
巨人 M-1の準決勝ぐらいになってきたら、僕は、劇場で若手のネタをよく聴くんです。みんなM-1用のネタをかけるので。ミキはちょっと滑る日がたまにあって、この調子やと決勝残れんのちゃうかと思ったら、案の定でしたね。和牛も前より何かテンポもパワーも落ちてる感じがしました。そこまで落ち着く年齢じゃないのに、何かベテランの匂いを僕は感じたんです。準決勝は見ていませんが、そのあたりが評価されなかった理由じゃないでしょうか。でも敗者復活戦では挽回するかもしれませんよ。
M-1は審査員も審査されているような雰囲気がある
――今回で7回目の審査員となりますが、審査依頼の話が来たときは快諾されたのでしょうか。
巨人 今回は話がきたら、やらせてもらおうと思ってました。でも、来年は休ませてもらおうかなと思ってます。まだ何も決まってない段階で、こんな話をするのもおかしいのですが。
――なぜですか?
巨人 そろそろ、ゆっくり観てみたいんですよね。近年は、M-1は審査員までもが審査されているような雰囲気があるでしょう。それが嫌やねんな。松本君は何言うの? 上沼さんは何言うの? と。なので、いいこと言わないとあかんみたいなプレッシャーもあるし。思ったこと、ズバッと言うてええのかなとか、ちょっと悩むんですよ。そういうのを短い時間で判断するのは大変やしな。いろんなこと考え過ぎて、言葉が出てこないこともある。それで家帰って、後悔するんですよ。ああ言ってやればよかったな、と。それもこれも、年齢的なもんもあるのかな。
M-1が始まった頃、紳ちゃんに「審査員やらせてくれ」って
――昔は、そんなことなかったわけですね。
巨人 家でテレビを観てるときに、このコンビには、こんなこと言うてやりたいというのがふつふつ湧いてくる感じでしたから。M-1が始まったばかりの頃、紳ちゃん(島田紳助)に頼んだことがあるんですよ。俺に審査員やらしてくれ、って。そのときは実現しなかったんですけど。
――審査員デビューとなった第7回大会、敗者復活戦から優勝したサンドウィッチマンが1本目のネタを終えたとき、「もう1本、こんなネタあったら、大変なことになりますよ」という名言が生まれましたが、その背景には、そんな思いがあったんですね。
巨人 あのときのコメントは、自分自身の中でも印象に残ってますね。決勝に残っていないのがおかしいって準決勝審査の批判みたいな事も言ってしまってね(笑)。
松本君、上沼さん、それぞれのポジションがある
――あの言葉で、ある意味、サンドウィッチマンの未来が変わったとも言えます。最終決戦に向け、勢いもついたでしょうし。
巨人 いやいや、それは彼らの実力です。審査員それぞれのポジションがあって、松本(人志)君は適度に笑いを取りに行くし、上沼(恵美子)さんは歯に衣着せない発言をする。それに対し、僕は笑いも取りに行かないし、どストレートな物言いもしない。そのコンビが今後、いい方向にいけるよう真面目に論じたい。それだけに、いろいろ考えてしまうんです。もちろん、番組が終わればいくらでも声をかけることはできますが、全国何百万何千万という視聴者が観ているところでの言葉だからこそ価値があるわけです。そう考えると、やっぱり重いんですよね。審査員という仕事は。
――点を付けるとき、基準のようなものはあるのでしょうか。
巨人 85点を最低ラインに置いて、面白いなというのは90点、なかなかやるなというのは93点、完璧やと思ったら95、6点という感じでしょうか。決勝にくるようなコンビは、85点以下になることはまずないと思います。でも65点くらい付けたいコンビもあったな~。僕は基本的に100点はつけません。その後の組で、それ以上の漫才を見せられたとき困りますから。101点は付けられないので。2016年、銀シャリが優勝したときにつけた96点が過去最高点なのですが、あれは正直、付け過ぎたかも分かりません(笑)。
これまでのM-1王者で一番心に残っているコンビは?
――M-1王者の中で、もっとも心に残っているコンビはどこですか。
巨人 それはやっぱりサンドウィッチマンやな。M-1の大会理念は、おもしろいのに埋もれている芸人に光を当ててやろう、というものなんです。そういう意味では、サンドウィッチマンは、ど真ん中の芸人だった。そもそもあれだけおもしろいのに敗者復活戦に回っていたというのも驚きでしたしね。嘘? なんで? という衝撃があった。まだ、あの頃は、今ほどYouTubeも普及してなかったからな。あの時代くらいまでなんちゃうかな、「発掘」という機能を果たしていたのは。今も昔も変わらずM-1は隠れてる漫才師を発掘するための大会なんです。でも、これだけネット動画が発達したら、隠れてる漫才師なんていないでしょう。もう隠れてなんかいられない。ミルクボーイは隠れてる……って言えるのかもしれませんが、彼らを含めて今年の決勝メンバーの動画だって、見ようと思えばいくらでも見れちゃいますから。サンドウィッチマンが彗星のごとく現れたときのようなインパクトは、もうないんちゃうかな。
あのときは和牛が優勝すべきやった
――最終決戦で、師匠が一度だけ、優勝コンビじゃないコンビに投票したことがあるのですが、それが2017年、とろサーモンが優勝した年でした。巨人師匠は和牛に投票したんですよね。
巨人 とろサーモンは後の事もあるし、獲るべきではなかったですね(笑)。僕は今でも、あのときは和牛が優勝すべきやったと思ってますよ。だから和牛に投票しました。
――若手の話をしているとき、じつに楽しそうですけど、本当にM-1の審査員を辞めるのですか?
巨人 いや、ここやからハッキリ言えるんです。審査員の席に座っちゃうとね。なかなか難しいものがあるんですよ。紳ちゃんに一度、メールしたことあるんよ。おまえ、審査員だけでもやったらどうや、と。でも、まあ、本人がやるいうても、吉本はあかんていうやろうな。
(【続き】デビュー45年 オール巨人が語る「アンタッチャブルの復活と漫才師の引き際」)
プロフィール
オール巨人/1951年生まれ。大阪府出身。1975年4月に「オール阪神・巨人」結成。コンビで令和元年春の紫綬褒章を受章。伝統のしゃべくり漫才で上方のお笑い界を牽引。M-1の審査員は2007年(第7回大会)以降、今年で7度目となる。阪神タイガースファン、身長184cm
写真=釜谷洋史/文藝春秋
デビュー45年に オール巨人が語る「アンタッチャブルの復活と漫才師としての引き際」 へ続く
(中村 計)
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